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大阪地方裁判所 昭和32年(行)63号 判決

原告 合資会社富熊農園

被告 八尾税務署長

訴訟代理人 今井文雄 外三名

主文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、

「一、被告が原告に対し昭和三二年五月一一日八尾間第七一五号をもつてした酒類の製造免許拒否処分はこれを取消す。被告は原告に対してこれが免許を与えよ。二、被告が昭和三一年一〇月三一日別紙目録記載の物件についてした差押処分はこれを取消す被告は原告に対し右物件を返還せよ。三、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、「一、原告は果樹の栽培並びに果実の販売を目的とする会社であるが、昭和三一年九月末の豪雨禍により原告会社経営の葡萄棚が倒壊して栽培中の葡萄が多大の被害を受け、殆んど生食用に供することができなくなり、また醸造業者への引渡を依頼した青谷農業実行組合からも使用不能を理由として、同年一〇月四日全部返品を受ける始末であつたので原告会社は、やむなく、これを原料として自ら葡萄酒製造を始めようと計画し、被告にその製造の免許方を再三懇請するとともにその頃、持合わせの機具、器材を使つてその製造に着手したものである。

その後、原告会社は被告に対し、昭和三二年四月二〇日正式に酒税法七条に基いて酒類製造の免許申請をしたところ被告は、原告会社及びその代表社員である富宅熊造が、同年三月四日附をもつて国税犯則取締法一四条による通告処分をうけながらいまだに通告の旨を履行していないから酒税法一〇条四号、七号に該当し、免許の要件を欠いているとの理由で同年五月一一日八尾間第七一五号をもつて原告会社に対し免許拒否の処分をした。しかしながら原告会社が葡萄酒を製造するようになつた経緯は、右に述べたように緊急止むを得ない事態に立至つたためでありこの製造が許されるか否かは原告会社にとつて死活の問題である。それ故にこそ原告会社は被告に対し再三その許可を懇請していたものであるところ、被告が、原告会社のかゝる事情を何ら考慮するところなく右のように拒否処分に及んだことは不当であるから、原告は被告に対し、右拒否処分の取消を求め、併せて新たに酒類の製造免許の付与を求める。

二、八尾税務署収税官吏は昭和三一年一〇月三一日捜索差押令状に基いて、酒税法違反嫌疑事件の証拠として、原告会社所有にかゝる別紙目録記載の物件を差押えたが、原告会社には酒税法違反の事実はないから、右差押処分は違法である。よつて、その取消並びに右差押処分の返還を求める。」

と述べ、被告の本案前の抗弁に対し、「前記拒否処分の通知書が昭和三二年五月二〇日原告会社に到達したこと、及び原告会社が右拒否処分に対して訴願を提起していないことは認める。」と述べた。

立証〈省略〉

被告指定代理人は、本案前の抗弁として、主文同旨の判決を求め、その理由として、「一、被告の本件拒否処分は原告会社が酒税法七条に基いてした酒類の製造免許の申請に対してなされたものであるから、訴願法一条三号により訴願を提起することができる場合に該当するところ、原告会社は遅くとも昭和三二年五月二〇日までに右処分の通知書の送達を受けながら、送達後すでに六〇日以上を経過した現在においてもいまだなお訴願を提起していないのであつて原告の本訴請求中右処分の取消を求める部分は行政事件訴訟特例法二条に違反し、訴願前置の要件を欠いているから不適法として却下されるべきものである。二、別紙目録記載の物件は八尾税務署収税官吏大蔵事務官荒井博史が、昭和三一年一〇月三一日、原告会社代表社員富宅熊造に対する酒税法違反嫌疑事件につき布施簡易裁判所裁判官吉岡幸三の発した臨検捜索差押許可状に基いて、右嫌疑事件の証拠として差押えたものであるところ、かゝる差押処分を不服として差押物件の返還を求める場合には、刑事訴訟手続によりその救済を求めるのは格別、これを行政事件訴訟たる本件訴において請求することのできないことは刑事訴訟法四三〇条三項の定めるところにより明かであるから、右差押処分の取消並びに右物件の返還を求める部分も同じく不適法として却下されるべきものである。」と述べた。

立証〈省略〉

理由

先ず、原告の本訴請求中本件拒否処分の取消を求める部分が適法であるか否かについて判断する。原告が被告に対し、原告主張のような酒税法七条に基く酒類製造免許の申請をしたところ、被告が昭和三二年五月一一日八尾間第七一五号をもつてこれを拒否する旨の処分をしたことは当事者間に争なく、右処分の通知書が同年五月二〇日原告に到達したことは原告の認めて争わないところである。ところで、右処分は訴願法一条三号にいわゆる「営業」免許の拒否に関する事件」に該当するから、同条本文に基いて同処分に対しては、別段の規定のない限り訴願を提起することができるものであるところ、この点に関し規定する法律は他にないのであるから、訴願提起のできる場合として、行政事件訴訟特例法二条により、訴願を経たのちでなければ、処分の取消を求める訴を提起することは許されないものというべきところ、原告が前記のとおり同年五月二〇日本件拒否処分の通知書の送達を受けながら、訴願法八条所定の六〇日以上を経過した今日においてもなお右処分に対する訴願を提起していないことは、原告の認めて争わないところであるから、右処分の取消を求める部分は、右特例法二条の訴願前置の要件を欠き不適法であるといわなければならない。

なお、原告は被告に対し、酒類の製造免許を与えるよう訴求するのであるが、かゝる訴は司法機関たる裁判所に行政機関のなすべき処分を求めるに等しく、三権分立という憲法の根本原則に照らし法が特別に規定する場合は別として、一般には許されないものと解されるところ、このような訴を認める明文の規定はないのであるから、被告に対し右酒類の製造免許の付与を求める部分も不適法というべきである。

次に、別紙目録記載の物件に対する差押処分の取消並びに右物件の返還を求める部分について判断するのに、八尾税務所収税官吏大蔵事務官荒井博史が原告主張日時原告会社代表社員富宅熊造に対する酒税法違反嫌疑事件につき布施簡易裁判所裁判官吉岡幸三の発した臨検捜索差押許可状に基いて、右物件を右事件の証拠として差押えたこと、は当事者間に争がない。しかして、右争ない事実と、乙第二号証、乙第五号証の一ないし三、乙第九号証の一、二(いずれも公文書)によつて認められる被告が、昭和三二年六月四日原告会社を酒税法七条一項違反の理由で告発し、更に同日右物件を差押目録とともに大阪地方検察庁に引継いだ事実とを合せ考えると、右物件については、国税犯則取締法一八条三項の適用を受け、検察官が、刑事訴訟法の規定により押収したものというべきことになるから、原告において同法四三〇条一項所定の刑事訴訟手続により、右差押処分の取消並びに差押物件の返還を求めるのは格別、これを行政事件訴訟たる本件訴において請求することのできないことは、同条三項により明白であるから、右差押処分の取消並びに差押物件の返還を求める部分も同じく不適法たるを免れない。

よつて、以上のとおり、原告の訴はすべて不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担について民訴八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 入江菊之助 日高敏夫 小湊亥之助)

目録〈省略〉

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